煉瓦トンネルの模範のような造形美にうっとりする。

明治期の煉瓦や石の造形が残る、JR総武線下り・御所トンネル。架線柱で一部隠れているが、扁額(へんがく)や要石(かなめいし…中央の長方形の石)など、当時の意匠が確認できる。

▲明治期の煉瓦や石の造形が残る、JR総武線下り・御所トンネル。架線柱で一部隠れているが、扁額(へんがく)や要石(かなめいし…中央の長方形の石)など、当時の意匠が確認できる。

御所トンネルは、JR中央・総武線の前身である甲武鉄道の開通に伴い完成した。このエリアに鉄道が建設された理由の一つが、トンネルの信濃町側にあった青山練兵場の兵員輸送。トンネルを含む鉄道の建設にあたっては、当時残っていた江戸城跡の外濠の地形を巧みに活用したとも言われている。


東京メトロ丸ノ内線の四ツ谷駅ホームから、130年前に煉瓦と石で頑健に造られたポータルを垣間見ることができる。プラットフォームに入線する真っ赤な車体の丸ノ内線と、その下に現存する古式蒼然としたトンネルの煤けた煉瓦のコントラストにはグッとくるが、トンネルのポータルをもっと間近で見てみよう。


四ツ谷駅前の四谷見附交差点から歩いてすぐ、四谷中学校前交差点の信号分岐を左に行くと、先ほど丸ノ内線ホームから眺めた御所トンネルの右上にさしかかる。柵があり中には入れないが、ポータル上部の壁柱の一部と思われる大きな礎石が柵越しに見える。素人目に見ても、頑丈で良質な石を厳選して使用したであろうことが伺い知れる重量感だ。


ポータルには、煉瓦だけでなく石造りの壁柱(へきちゅう)や扁額(トンネル名を記したプレート)も残っている。明治期のトンネルの見本のような威厳ある造形に、惚れ惚れする。

歩道脇の柵越しに、トンネルの壁柱の一部と思われる重量感ある礎石が見られる。

▲歩道脇の柵越しに、トンネルの壁柱の一部と思われる重量感ある礎石が見られる。

ここまで来ると、トンネルの出口も見てみたい。


御所トンネルの真上は迎賓館(当時の東宮御所の一部)ということもあり、御料地内に鉄道を建設することには反対もあったというが、このルートは現在の四ツ谷から代々木・新宿へダイレクトに至るため、御所トンネルの開通は東京の鉄道の利便性向上に大きな役割を果たすことになった。当時の宮内省の英断に感心する。


四谷中学校前交差点から外苑東通りを進んで少し迂回し、信濃町側のトンネル出口に近い中央・総武線の線路をまたぐ地点まで歩く。すると、橋上からコンクリートの四角い形をした新御所トンネルが3本並んでいるのが見える。


明治期に造られた総武線下りの御所トンネルは一番右奥で見えないが、新御所トンネルは昭和4(1929)年の複々線化工事で完成した、現中央・総武(上り)線のトンネルだ。先ほどの丸ノ内線四ツ谷駅ホームの窓越しでも見える。なかなかシブい形状の鉄筋コンクリート製で、地上から直接掘って埋め戻す「開削工法」により造られた。この工法は戦前の東京の地下鉄工事でも採用されている。

信濃町側の3本のトンネルは昭和4(1929)年完成。総武線下りの明治のトンネルは、写真右の線路の先にある。

▲信濃町側の3本のトンネルは昭和4(1929)年完成。総武線下りの明治のトンネルは、写真右の線路の先にある。

電車で通過するとスピードが速く、また車内の光が反射するのでトンネル内の状況はよく見えないが、内部の壁面は後年に補強されている。


しかし、四谷側のポータルだけでも十分に歴史的な価値があり、その意匠から明治の鉄道における土木技術の素晴らしさが感じられる。煉瓦は永遠にその姿をとどめるものではないと思うが、少しでも長くこの麗姿を保ってほしいと願う。

東京メトロ丸ノ内線の四ツ谷駅から。写真右下にはJR総武線下りの御所トンネルが、その右手には3本並んだ新御所トンネルがある。

▲東京メトロ丸ノ内線の四ツ谷駅から。写真右下にはJR総武線下りの御所トンネルが、その右手には3本並んだ新御所トンネルがある。

(参考文献)

・鉄道構造物探見(小野田滋・著、JTBキャンブックス)

・ドボ鉄入門講座:絵はがきで読み解く土木×鉄道(土木学会、小野田滋・著)

 

※写真は2023年9月23日、著者により撮影(無断転用・転載を禁じます)。

 

【御所トンネルの四ツ谷側ポータル(入口)について】

・東京メトロ丸ノ内線新宿・荻窪方面行ホーム後方部から柵越しに眺められますが、見学・撮 

 影に際しては柵の手前から、ルール、マナーを守って行ってください。

※工事等のため近づけない場合もあります。

 

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