
花田 欣也
花田欣也(はなだきんや) トンネルツーリズムプランナー。総務省地域力創造アドバイザー、(一社)日本トンネル専門工事業協会アドバイザー、(一財)地域活性化センターのフェローなどを務める。 鉄道が好きで30歳でJR全線を乗車したかたわら、ニッポンの産業遺産・トンネルに強い興味を持ち、以来全国各地を訪ね歩き、「マツコの知らない世界」などテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Webでトンネルの魅力を発信。トンネルに関する講演や、トンネル・廃線ツアーの講師も務めている。著書に「鉄道廃線トンネルの世界」(天夢人)など。 オフィシャルサイト https://hanadakin-chiikitnl.grupo.jp/
東急多摩川駅から線路沿いを歩くと、やがて姿を現わす“トンネル”!

▲多摩川駅から歩いてゆくと、住宅の先に“トンネル”が見える。
東急多摩川線と言うと、昭和生まれの人には「目蒲線」のほうが馴染みがあるかもしれない。多摩川駅から踏切を渡り、同線の線路に沿って左側の道を歩いてゆくと、やがて前方にその“トンネル”が姿を見せる。
トンネルの真上には中原街道が通っていて、長さが24mと短いこともあり、道路橋のように見えるかもしれない。昭和9(1934)年に完成したコンクリート製のトンネルで、その名を「沼部隧道」という。
沼部周辺は閑静な住宅街だが、台地から多摩川にさしかかる段丘のへりに接した六郷用水崖線のエリアで、ヒット曲で有名な「桜坂」をはじめ、急傾斜の坂がいくつもある。中原街道を市街地の雪が谷から進むと、下り坂の先に視界が開けて丸子橋に向かうが、その途中で、このトンネルと東急多摩川線をオーバークロスして、まもなく多摩川を渡る。この地形は戦前から変わっていない。推察だが、昭和初期の建設時に、多摩川に近い段丘の地盤の状況を考慮して、しっかりとした造りのトンネルを通したのではないかと私は考える。
トンネルポータルは昭和レトロなデザイン

▲独特の縦縞模様やアーチ環の迫石、要石は、昭和初期の意匠を感じさせる。
沼部隧道の間近に来ると、ポータル(入口)が何となく洒落て感じられる。アーチ環(トンネルポータルの円形のアーチ)に対し上に向かって垂直に中原街道へ伸びる縦じまの模様は、アーチ橋を思わせるデザイン。近接する丸子橋とデザインを合わせた、という考察もある。道路のアンダーパスにしては、凝ったデザインで、昭和レトロな雰囲気も醸し出している。アーチ環の迫石(せりいし)や中央部の要石(かなめいし)もトンネルと同様の造りで、楕円のアーチは貫禄さえ感じさせる。
トンネル内には貴重な東京府マーク入りマンホールも

▲東京府のマークの入ったマンホール。シンプルだが重厚なデザイン。
のっぺりとした内壁のトンネルはコンクリートで覆工されており、路面に東京府のマークの入った東京府時代のマンホールが2個残っている。目立たないが重厚でシンプルな造りで、かつてこのトンネルが暗渠(あんきょ)だった名残りという説もある。
トンネルの先は「大田区自然観察路雑木林のみち」の旧六郷用水沿いの遊歩道が続き、春は綺麗な桜が楽しめる。人気が高い桜坂に比べて混雑しない穴場だ。用水路には「ジャバラ」と呼ばれる揚水用の水車もあり、かつてこの付近が一面の田畑だったことを物語る。
ほどなくして沼部駅に着くが、冬晴れの日なら、多摩川駅から坂道を上ると多摩川台公園から雪をかぶった富士山が見える。神奈川県の方角に建物は増えているが、この素敵な景色も昭和初期から変わらないものだろう。
【沼部隧道のアクセス】
・東急東横線・目黒線・多摩川線多摩川駅から徒歩約8分、多摩川線沼部駅から約10分。
(参考文献)
・日本の近代土木遺産【改訂版】(公益社団法人 土木学会)
※写真撮影:花田欣也

▲アクセスに便利な東急多摩川線では、運が良ければ人気の「いけたまハッピートレイン」にも会える。(東急多摩川線下丸子駅ホームから撮影)
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