お店にたどり着けない日も・・・自分の中で「幻か?」と思っていた、その理由

今から10年以上も前、阿佐ヶ谷駅周辺の路地をふらふらと歩いているときに、目に入った看板に誘われて扉を開けた「アロウ」。なんとも言えない味わいのある空間が好みで、その後も何度か訪れて珈琲を片手にぼんやりと過ごしました。

看板がないと一見普通の民家のようで、何度か素通りしてしまった外観。

▲看板がないと一見普通の民家のようで、何度か素通りしてしまった外観。

それから数年経った、溶けそうに暑いある夏の日のこと。ふと頭によぎったアロウへ足を運んでみるも、もともと正確な場所がうろ覚えだったことと、鮮やかな緑色の看板頼みだったことのせいで、結局お店を見つけられず、「あれはいっときの幻だったのかも・・・」と思うように。

「TERRACE」という文言や、はっきりした配色も良い。

▲「TERRACE」という文言や、はっきりした配色も良い。

さらに月日が過ぎ、目的なく周辺を歩いていた時。なんと見覚えのある看板と再会したのです。「あ~、暑い夏の間はずっとお休みしているからね」と教えて下さったのは、やさしそうな笑顔が印象的な店主の神谷さん。


昭和53(1978)年12月創業、もともとこの場所は、ご両親の営むラーメン屋だったそうで、ご兄弟は今も、天沼と西荻窪に場所を移し「丸福中華そば」を営んでいます。神谷さんは大企業の正社員としてしばらく勤めた後、「商人の子は商人」と思うようになり、雇われるのではなく喫茶店を経営する道へ。今はもうない西荻窪店を奥さまが、阿佐ヶ谷店を神谷さんが担当する、2店同時営業をしていた時期も。

ピアノの横にある一人席は、端っこ好きにはたまらないスペース。

▲ピアノの横にある一人席は、端っこ好きにはたまらないスペース。

神谷さんが営む阿佐ヶ谷店は、昼は喫茶、夜はスナックだったときも。その当時のメニュー。

▲神谷さんが営む阿佐ヶ谷店は、昼は喫茶、夜はスナックだったときも。その当時のメニュー。

「誰にも真似できないものを」そんな想いから生まれた特大ホットケーキ

20数年前までは、ナポリタンやピラフ、酒の肴になるようなメニューもあったそうですが、その後は、珈琲とパン類が主なメニューに。


そんな中、ひと際目を引く「特大ホットケーキ」という文字。いったいどのくらいの大きさなのですか、と尋ねてみると「フライパンの大きさ」という返事が。焼き上がりに30分以上かかるということだったので、日を改めて訪問し、注文してみました。

ホットケーキの完成を見届けるべく、特等席のカウンターへ。

▲ホットケーキの完成を見届けるべく、特等席のカウンターへ。

まず、粉と砂糖を量るところから始まり、慎重に、丁寧に、じっとメモリとにらめっこする神谷さんをカウンター越しに見守ります。驚いたのは取り出した卵をそのまま割り入れるのではなく、一つ一つ容器に割っては泡立ててから計量し、レシピ通りの正確な分だけ使うということ。泡だて器についても、卵だけ混ぜるときと、砂糖が入ってからでは、違う形状のものを使うというこだわりよう。

職人の手、という感じがして見入ってしまいます。

▲職人の手、という感じがして見入ってしまいます。

卵は一度泡立ててから計量するという几帳面さ。

▲卵は一度泡立ててから計量するという几帳面さ。

上下に押すだけで簡単に泡立てられるアイディア商品。同じものが欲しくなりました。

▲上下に押すだけで簡単に泡立てられるアイディア商品。同じものが欲しくなりました。

そうして、すべての材料をボールに入れて混ぜたものが、熱せられたフライパンへ。すかさずフタをして約10分。こんがりと焼き色が付いたらひっくり返してまた数分。

この大きさのホットケーキを一人で・・・!とわくわくする瞬間。

▲この大きさのホットケーキを一人で・・・!とわくわくする瞬間。

焼き上がりを待つ間は、神谷さんとのんびりおしゃべりする楽しいひととき。中央線沿線の歴史や事情に詳しく、興味深い話を聞いているうちに、どうやら完成したようです。

一枚焼くのに30分以上かかるため、一日に2~3枚しか作らないそう。

▲一枚焼くのに30分以上かかるため、一日に2~3枚しか作らないそう。

「はい、完成!」と、かわいらしい花柄のお皿に乗せられたホットケーキは、偽りなしの特大サイズ。直径は20㎝以上、真ん中の厚い部分は3㎝はありそうです。また、横に添えられたのはフォークとナイフのみ。アロウでは、バターもシロップもかけず、そのまま味わうスタイルなのです。

通常のものより少し小さいサイズのマッチ箱ですが、並べてみるとご覧の通り。

▲通常のものより少し小さいサイズのマッチ箱ですが、並べてみるとご覧の通り。

写真を撮り終えたタイミングで、神谷さんから「カットする?」というお声。せっかくなのでお願いすると大きな四等分に。バターもシロップもかけないため、「そのまま手で食べる人が多いよ」ということで、そちらに倣っていただきます。ふんわりしたホットケーキを手づかみするというちょっとした背徳感と、指先に伝わってくるほのかなあたたかさがたまりません。

食べきれなかった時は持ち帰りも可能。

▲食べきれなかった時は持ち帰りも可能。

今までの純喫茶巡りの記憶に当てはめると、このようなお店ではメニューは珈琲のみが提供されることも少なくなかったのですが、アロウではビールを含む7種類の飲み物と4種類の軽食が楽しめます。創業当時からほとんど変えていないという価格は申し訳なくなってしまうほど安く、ずっと350円だった珈琲は、2024年10月1日にようやく400円に。


にこやかなマスターとお話しながら、自分だけのためのホットケーキができあがるのを待つという、贅沢な時間を過ごしてみませんか?

余談ですが、たまに見かけるこのオブジェの作り方の種明かしを聞いてびっくり。

▲余談ですが、たまに見かけるこのオブジェの作り方の種明かしを聞いてびっくり。

<珈琲 アロウ>

住所:東京都杉並区阿佐谷北2-3-1

電話:なし

最寄:阿佐ヶ谷駅


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